【試飲会レポート】耐性ブドウ「ピィヴィPIWI 」とは

ワインの世界で『ピィヴィ PIWI』という言葉を聞いたことはありますか。

ピィヴィとは、ドイツ語で【Pilzwiderstandsfähige:ピルツヴィダシュタンツフェイゲ】の略で、直訳すると『耐性ブドウ』という意味です。何に耐性かというと、主に「べと病:Peronospora」「うどん粉病:Oidiuo」そして「灰色カビ病:Botryte」というカビ由来のブドウ病害に対して耐性があります。いわゆるハイブリット品種で、主にヨーロッパ系品種とアメリカ系品種、またはアジア系品種とを交配させて開発します。

この分野で有名な研究大学が二つあり、そのパイオニア的存在なのがドイツのフライブルグ大学です。ピィヴィという語源は恐らくこの大学から発信されたものだと思います。またイタリア北東のフリウリ州にあるウディネ大学も非常に重要な位置付けです。

1999年には、この耐性ブドウを使用した生産者で結成された「ピィヴィ・インターナショナル Piwi International」という協会が創設され、現在ではその規模は550社。その所在国も21か国と拡大傾向にあり、主にヨーロッパと北米地域に多数存在します。

『Piwi international』のサイト


南チロルでは、カルダロにある「リーゼレルホフLieselehof」という作り手が、そのパイオニア的存在です。現当主、ヴェルナー・モランデルWerner Morandell氏はフライブルグ大学の教授であり、この分野では有識者として講演や試飲会に多く登壇されています。今回のブログではそのモランデル氏が登壇された2018年11月のワインフェスティヴァル、マスタークラスのバーティカル試飲会のレポートをお伝えします。


また別の機会に、リーゼレルホフの【カンティナ訪問記】及び【PIWIブドウのレポート】をまとめようと思います。


【試飲会の概要】 

日時:2018年11月10日 14:30- 

場所:ホテル・テルメ・メラーノ 

登壇:ヴェルナー・モランデル(リーゼレルホフ当主)

   ニコラ・ビアージNicola Biasi(エノロゴ、カンティナ・ヴァン・ドゥ・ラ・ヌー当主)

試飲するワイン一覧:  

 Cerealto Bianco Veneto 2017 Terre di Cerealto

 Bronner 2017 Lavis

 Limine IGT 2017 Terre di Ger

 Johanniter 2016 Vin de la Neu Nicola Biasi

 Vino del Passo 2017 Lieselehof

 Lieselehof Brut 2015 Lieselehof

 Abendrot 2013 Hof Gandberg

 Johanniter 2013 Vin de la Neu Nicola Biasi


その前に

【「次世代のワイン」という懇談会についてレポート】

「次世代のワイン–Il vino che verrà」という有識者懇談会が2018年11月9日、メラーノのレーナ広場で行われました。「次世代のワイン」の主題は「ピィヴィPiwi」でしたので、その模様もレポートします。


モランデル氏曰く、イタリアではフライブルグ大学で研究されたピィヴィ品種を、南チロル州からスタートし、現在ではロンバルディア・ヴェネト州でも栽培されている。イタリア全国でピィヴィ・ブドウを栽培している農家が20存在し、うち5つは南チロル。ここ5・6年で確実に品質が向上していており、取り分け白ワインやスパークリング、そして標高の高い地域で栽培された品種などは注目に値する。リーゼレルホフでは「ヴィーノ・デル・パッソ」と呼ばれるワインが標高1300mのメンドラ峠とオリーヴォ峠の畑でソラリス種(Solaris)を使用し醸造されている。


ニコラ・ビアージ氏がピィヴィ・ブドウの流通について語る。

このピィヴィ・ワインは流通網に気をつけなければいけない。価格を安く抑えることにより認知されにくく、飲まれないワインになってしまう。 価格と付加価値をあげることで認知度が高くするという戦略。ピヴィのブドウ樹は、ヨーロッパ系品種ヴィニフェラ種と比べると一本の単価が高い。ピィヴィの栽培目的は、単純に畑の作業量を減らすための手段ではない。健康や自然、農作業の最適化を踏まえルト最善のブドウ造り。 


フリウリのサルトリ氏曰く、1998年からフリウリでも認知されルようになり、 2006年からはシリウス(Sirius)種のポテンシャルが認められるようになった。シリウス種の両親は ヨーロッパ系品種ヴィニフェラ同士のハイブリット(Bucchus x Villard Blanc (Seibel 6468 x Seibel 6905))

現在フランスでも、50万本が栽培されている。ウディネ大学で研究開発された10 種類のピィヴィブドウは、現在30万本から40万本生産され、多くのブドウ栽培農家に購入されている。ウディネ大学が研究開発で大事にしていることは、地元のブドウを軸にハイブリットを考えるということ。 


【マスタークラスの講習】

モランデル氏は、ピィヴィ・ブドウができるまでの歴史を簡単に辿ってくれました。

ピィヴィの歴史

1850年代、アメリカから「うどん粉病」や「ベド病」と呼ばれるカビ由来の寄生菌がもたらされる。当初、この問題解決のためにハイブリット種を試したのは フランスとスイス、ロシア、チェコスロバキアだった。ハイブリット品種開発とは別で、フランス人はこの頃、銅と硫黄、石灰を混ぜていわゆる「ボルドー液」を開発する。150 年前の当時、アメリカ系種とヨーロッパ系種を交配すると、飲めるワインとしてのブドウは作れなかった。どうして動物臭が残る物ばかりだった。(例:クリントンClinton、フラゴリーナFragolina)そこから5世代・6世代かけて血統を薄くしていく。(およそアメリカ系品種3%)1960年代 にはアジア系品種、アムレンシス(amulensis)を使用したハイブリット種が作られる。当時からプラハ大学やドイツのガイゼンハイム大学は醸造技術で先端を行っていた。


ピィヴィ・ブドウを研究開発するには多大な時間がかかる

まずは基準となる品種の受粉に関して、一見簡単そうに見える作業だがここでは非常に細心の注意が必要となる。約1時間から1時間半かけて最大200から300程のオシベを除去。交配する別のオシベをハケを使って受粉させる。しっかりを受粉させないと結実しないので、細心の注意が必要となる。その後、花の部分を虫の影響が受けないように袋で閉じる。3週間後、結実されて小さな菓房ができれば受粉は完了。そのまま秋口まで成長を促し、完熟度を増した状態で収穫する。そこで果粒から種のみを取り出す。一房から約300から400もの種が取れる。


取り出した種は深さ約60〜70cmの土に埋めて、発芽するのを待つ。発芽後、温室にて「ベト病」菌を散布して遮光された空間で6〜7週間放置。初めの1・2週間は感染された部分をその都度撤去する。その期間が終わる頃には数は半減している。その後1週間、何もせずに自然に育成させたのち(この期間をヴァカンスと呼んでいる)、今度は同じ条件で「うどん粉病」菌を散布させ、同じく6〜7週間放置させる。この期間を経た後、残っている数は全体の2%ほど。3万本からスタートさせ、残るのが600〜700本のみ。


これらの残った木は、引き続き温室環境にて5年継続される。その後、6〜7年後には600本が6・7本程度残り、7年目にいよいよ野外で栽培される。その際、ミュラー・トゥルガウという非常にデリケートな品種の間に植えられる。それは同品種が育成期間に多くの病気に感染するリスクが高い品種だからである。そのような厳しい環境の中に、もう6・7年栽培する。もちろんその間、ミュラー・トゥルガウには一切の施しは行わないので、すでに7月には葉を落とす事になる。このようにして13年近く経過した木は2・3本しか残らない。


こうしてできた2・3本の木は複製され、100から500まで数を増やす。それらを5か国(フランス、スイス、イタリア、ドイツ、オーストリア)へ運び各地で栽培。リーゼレホフはこの研究対象畑をイタリアの代表として提供している。引き受けるにあたり契約では9年間、同品種を栽培育成し、その後正式にワイン造りをする義務が課せられる。もちろん初めは通常とは違い極小な規模であるが、18年後には200〜300lt.まで増える計画。その後、100人ほどのプロが比較試飲を行う。過去の経験では午前中に140種類もの試飲を行ったこともあるという。引き続き、同じ流れを6年継続させ、交配から30年かけて正式に同品種の「耐性」が承認される。


現在ではこれらのプロセスがIT化され、各国でその経緯が報告されている。フランスの大学では機能しているという反面、ドイツの大学ではヒトの管理がベターという声も出ている。


具体的な品種

フライブルグ大学で発表された品種には、アロメアAromea、ソリーラSolira(オーストリア人のヴァイス博士作)、ブロンナーBronner、ソラリスSolaris、ムスカリスMuscaris、ヨハンニーターJohanniter、スヴィニエル・グリスSouvignier Gris、ヘリオスHelios、プリオールPrior、ヴィノレVinoré、ヴィネラVinera、カベルネ・コルティスCabernet Cortis、カベルネ・カントールCabernet Cantor、カベルネ・カロールCabernet Carol、シャンブルサンChambourcin(フランス、リヨンの南30kmで発祥か)

ドイツのガイセルハイム大学ではレゲントRegent(1968年)


ちなみにカルダロのリーゼレルホフでは世界のブドウ品種約360種が植栽されており博物館として認定されている。そこでウディネ大学の研究員たちが、数年前にリーゼレホフの博物館から交配用に花粉を採取しに来た経験がある。後にこれらの品種はフルールタイFleurtaiやソレーリSoreliの基盤となるが両者とも、この博物館のユリウスJuliusとビアンカBianca(ハンガリー産の耐性ブドウ)が活かされている。

ウディネ大学で開発されている品種にはフルールタイFleurtai、ソレーリSoreli、メルロー・コルスMerlot Khorusとメルロー・カントゥスMerlot Kanthus。特にフルールタイFleurtaiとメルロー・コルスMerlot Khorusを有望視しているが、認定は未確定である。


ここからはVin de la Neuのオーナーエノロゴのニコラ・ビアーズィ氏が利点と不利点について深掘りしてくれました。


ピィヴィに栽培変換させることでもたらされる利点

ここには色々な意味で「削減」というキーワードが出てくる。まずは農薬。これはほぼゼロにちかいレベルであるが、このピヴィのいいところは一度植えると畑での作業が格段に減る。畑での仕事のほとんどは病気やカビを発見し対処することなのであれば、その必要性は極限になくなる。

そうなると畑での作業量というのも「削減」される。通常年間通して10回から15回、多くて20回ある農作業が、ピィヴィ品種に変換させるとその数が1から4回に減り、またミクロクリマ最適な環境条件であれば「0」回というのも発表されている。

また同様に二酸化炭素も「削減」される。病気の対処をすると専用の機械やそれを運ぶ移動手段に燃料がかかり多くの二酸化炭素を排出する。その必要性がなくなる。

そして水分も「削減」される。1haあたり毎回200ー300lt.のお水が作業で必要になってくるが、ピィヴィはそれが必要ない。


逆に不利点

一方、不利な点を挙げるのであれば、第一に上げられるのは「価格」だろう。一本の苗木はヨーロッパ系品種と比べて初期投資の段階で数千ユーロの差額が出て来る。

また認可が下りていない州が多くあることも課題である。フライブルグ系の品種が認可されている地域は、アルト・アディジェ(南チロル)、トレンティーノ、ヴェネト、ロンバルディアで、ウディネ系の品種はフリウリ、ヴェネト、ロンバルディア、アブルッツォ、プーリアなど、それぞれ認可の差が出ているのも事実である。

そして何よりマーケットに対する認知度が未だに低いということも課題である。レストランのワインリストで見つけても誰かが説明しなければ、飲まれないままになってしまう。敢えて価格帯をアッパーにしているのもその理由で、このように啓発活動が直近の課題であるという認識だ。



いかがでしたか。 


今回は2018年のワインフェスティヴァルで行われた、耐性ブドウ『ピィヴィワイン』のセミナーについてレポートしました。まだ日本では無名なジャンルだけあり、次世代のワインとして情報を先取りでお届けれきれば嬉しいです。 次回はいよいよバーティカル試飲のレポートをお伝えします。


このブログでは南チロル(アルト・アディジェ)のワインを中心に、製造工程から味の感じ方まで紹介しております。 もし気になるワインや生産地、ワインメーカーなどございましたら、どうぞお気軽にコメント欄にお書きください。 


それでは楽しいワインライフを。 


#ピィヴィ #Piwi  #ピヴィ #比較試飲 #バーティカル #ワイン #試飲 #南チロル #アルト・アディジェ #イタリア #北イタリア #メラーノ #ワインフェスティヴァル #マスタークラス #ベト病 #うどん粉病 #灰色カビ病 #ブドウ栽培


Avvocato del Vino Altoatesino

【旧:南チロルの風ブログ】2003年よりイタリア・南チロル地方(イタリア語:アルト・アディジェ州)で働くソムリエが、ワイン生産者やイベント、地域について紹介するブログです! 【南チロルの風ブログURL: https://altoadigefiordiciliegio.blogspot.com/】

0コメント

  • 1000 / 1000